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線毛運動を大切に考えたうがい薬

殺菌と洗浄で風邪を予防

30分間の大玉送りで異物を排出

イメージ:30分間の大玉送りで異物を排出

ヒトは1日に約2万リットルの空気を呼吸、口や鼻から入った空気は、のどを通り気管を経て肺に入ります。こうして吸い込んだ空気には、ほこりやばい煙、カビ、細菌、ウイルスなどの異物が含まれています。空気の中の異物を肺まで届かないようにガードしているのが、咽喉から肺に至る気道の内壁を覆う粘膜と線毛です。
気道に入った異物は粘液で捕らえられ、その下にある線毛が1分間に約0.5~1センチメートルの速さで外へ向かって異物を移動していきます。咽頭へ戻された異物は、痰として体外に排出されたり、食道から胃に入り消化されたりします。
線毛運動が異物を運び出す様子は、大きな玉を人の手で次々と受け付きながら送っていく運動会の大玉送りに似ています。肺に入った異物が排出されるまではおよそ30分といわれています。だから、わずか直径1,000分の1ミリの線毛の動きが、外部から混入する異物から、身体を守るのにたいせつな役割を担っているのです。

デリケートな線毛は寒さに弱い

イメージ:デリケートな線毛は寒さに弱い

線毛の弱点は「寒さ」と「乾燥」。冬にインフルエンザにかかりやすいのはこのためです。
寒さから線毛運動を守るのはマフラーとマスク。マフラーで咽喉を暖め、マスクをすることで咽喉の乾燥を防ぐことができます。
写真左側が健康な状態の気管の粘膜。じゅうたんのようにびっしりと生えた線毛は、せせらぎの中で水草がそよいでいるように見えます。
右側の写真はインフルエンザに感染し線毛細胞が脱落した状態です。この粘膜細胞が新たに再生するまで、およそ3週間から1カ月かかります。
(写真提供:東京女子医科大学主任教授 玉置 淳先生)

殺菌と線毛保護を両立した新処方

グラフ:殺菌剤CPCとプロピレングリコール配合のうがい薬の線毛運動への影響

咽喉は気道の入口に近いため空気と共に入ってきた異物が付きやすく、口腔由来の汚れも付着します。また、線毛運動で肺や気道から送られてきた異物の終点でもあります。この異物を洗い流し、線毛運動をサポートすることがうがいの目的の一つです。

また、うがい薬はのどの洗浄と殺菌が役目です。

そこで、殺菌剤で咽頭を殺菌しても、線毛運動に影響を与えない「うがい薬」の開発を行うこととしました。いろいろな殺菌剤や条件を変えながら研究を進め、いままでうがい薬にも使われてきた殺菌剤・塩化セチルピリジニウム(CPC)を、生理食塩水に近い濃度の塩水に溶かすと線毛運動を妨げないことを突き止めました。しかしこれは塩辛過ぎて、子供の使用等を考えると残念ながら実用的ではありませんでした。

 

塩水に代わるものとして、線毛運動と殺菌剤の効果を妨げないだけでなく、味や粘度・安定性など製品としての機能でも条件にかなうものを探す過程で、プロピレングリコールを見出しました。水やアルコール類に溶けやすく、保湿効果が高く化粧品にも使われている成分で、医薬品や化粧品などの防腐性を高めるために使用されています。

このプロピレングリコールに殺菌剤CPCを配合して作られたうがい薬は、咽喉の殺菌効果があり、線毛運動への影響もほとんどないことが確認されました。ヨード系のうがい薬のような強い味がしないので、子供でもむせにくいという特徴もあります。

うがいと線毛運動の関係に着目した研究が、線毛運動にダメージを与えず、咽喉の汚れを洗い流せる新しいうがい薬の誕生に結びつきました。

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