歯周病の真実

口腔バイオフィルムの正体を探る

歯周組織を破壊する歯周病菌は歯周ポケットの奥のバイオフィルムの中でひそやかに、そしてたくましく生息しています。「バイオフィルム」とはいったい何か。そしてどんな問題があるのでしょうか。

一緒に住めば強くなる----バイオフィルムの「なぜ?」

口腔バイオフィルムは複数の細菌が集まって構成され、その内部ではこれら細菌による生態系が作られています。ある種の細菌が出す老廃物は他の細菌の栄養となるなど、一種の食物連鎖が出来ていると言われています。バイオフィルム内部奥の細菌はあまり活発に活動していないものの、何かきっかけがあれば、再び活発に活動できます。

このバイオフィルム内に棲む細菌は、単独でいる場合と性質が大きく異なります。歯周病菌を例にとれば、口腔内に漂っている状態の歯周病菌は、通常の殺菌剤でたちまち死滅しますが、バイオフィルムを形成した歯周病菌の場合、バイオフィルムが殺菌剤に対する抵抗性を持っているために、表層の一部を殺菌するだけで、内部の歯周病菌を殺菌することができません。

殺菌剤探索のための人工口腔バイオフィルム開発

イメージ:研究員が着けていたマウスピース

研究員が着けていたマウスピース。白く丸い部分がハイドロキシアパタイト。初期の研究では、ここに付着したバイオフィルムを実験に供した。

ライオンでは実験に使う口腔バイオフィルムを確保するために、当初は歯と同じ材質のハイドロキシアパタイト付きのマウスピースを研究員が口腔内に装着、1週間かけてバイオフィルムを採取していました。
しかし、殺菌剤探索のためには、この方法では十分なバイオフィルムサンプルを確保することができません。そこで、「人工口腔バイオフィルム」の開発に着手することになりました。
担当研究者が、アメリカ・モンタナ州立大学のバイオフィルム工学センターで基礎を学び、帰国後さらに研究を重ね、約1年の歳月を費やし、実際の口腔バイオフィルムと極めて近い、再現性に優れた人工口腔バイオフィルムを開発しました。

口腔バイオフィルムのできるまで

イメージ:口腔バイオフィルムの生成過程

身近でなじみのあった殺菌剤 IPMP

イメージ:イソプロピルメチルフェノールを発見した際に使った実験装置

バイオフィルムの内部まで浸透し殺菌できる薬剤を探しだすために右図の実験装置を使いました。
フィルター上に人工バイオフィルムを培養し、上に薬物溶液を置きました。人工バイオフィルムを通過して薬剤が人工唾液に届けば、細菌の層を浸透・通過したことになり、殺菌剤として使える可能性が出てきます。数百種類に及ぶさまざまな薬剤を、次々とテストにかけた結果、発見されたのがイソプロピルメチルフェノール(IPMP)です。すでに50年も前から使用されている殺菌剤だったのです。

IPMPがバイオフィルムに浸透し殺菌できるわけ

イメージ:イソプロピルメチルフェノールの殺菌過程

歯磨剤や洗口剤などで、従来から使用されてきた殺菌剤塩化セチルピリジニウム(CPC)は、口腔内の浮遊性細菌には強力な殺菌作用を持っています。
しかし、バイオフィルムに対してはCPC自体がカチオン性物質でプラスイオンを持っているため、マイナスに帯電したバイオフィルム表層の細菌に吸着し、それ以上奥まで浸透することができません。
この結果から、バイオフィルムに浸透する殺菌剤はプラス・マイナスの電荷をもたない非イオン性物質が望ましいことが分かりました。

グラフ:疎水性指標とバイオフィルム透過性の関係

しかし非イオン性の物質ならなんでも良いというわけではなく、親水性(水になじみやすい性質)と疎水性(水になじみにくい性質)の中間の性質であることも、バイオフィルムに浸透する条件の一つです。これらの条件を満たす殺菌剤がIPMPだったのです。
IPMPは非イオン性であるために、バイオフィルム表面の細菌に電気的に吸着されることなく、高い浸透力でバイオフィルムの表層から浸透し、これを突き抜けて、次々と殺菌しながら奥深くの細菌にまで到達することができ、バイオフィルム全体を殺菌することができるのです。

グラフ:殺菌力の比較

殺菌剤の殺菌力を比較したグラフで、数値が低いほど殺菌力が高いことを示します。CPCやトリクロサンは未処理と大差なく、ほとんど殺菌効果はありません。IPMPの場合、未処理の1/10000以下の細菌しか検出できず、高い殺菌効果があることを示しています。

イメージ:口腔バイオフィルムに対するイソプロピルメチルフェノールの浸透殺菌力

緑色が生菌、赤色は死菌。CPC処理では表層の一部が殺菌されていますが、内部までは殺菌されていません。
IPMP処理の場合、表層が全体に殺菌され、内部にも浸透して殺菌していることが分かります。

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