印刷物の変わり種-その2-

チラシ広告
(大正から昭和初期頃)

左写真のようなユニークなチラシ広告を紹介しましょう。
タテ12cm×ヨコ7cmの小さなものです。大正から昭和初期に作られたものと思われます。
絵柄は、新聞配達員(ヒゲをはやしていますから少年ではありません)が自転車で配達しているところです。ニッカーボッカーに脚半、鳥打帽となかなかおしゃれなファッションです。背景は真紅。背にした新聞の束、実はこれがチラシなのです。
新聞を背負うベルトの両側が切り込みになっていて、折りたたんだチラシが差し込んであるのです。新聞配達員がお届けするチラシ広告という訳です。なかなかのアイデアですね。
これを取り出して広げると下のような文面「ライオン歯磨の話」が現れます。
ライオンが自慢げに話をしている様子がほほえましいですね。
このような差し込みに使われたチラシは何種類か作られたと思われますが、残念ながら1種類しか残っていません。

チラシ本体

台紙の裏側「歯の衛生訓」

新聞配達員の描かれている台紙の裏側には、左のような「歯の衛生訓」が印刷されています。
ふりがなのつけ方が時代を感じさせますね。

表情が変わる

回転すると変わる・・・
下の宣伝物は一見とても不思議な形をしていますが、全体は奥歯(臼歯)の形を表しています。宣伝物に書かれている標語「御国ヲ守レ歯ヲ護レ」は、第7回「ムシ歯予防デー」で使われていますから昭和9年(1934年)のものです。
ひょっとしたら、この年のムシ歯予防デー事業に協賛して行われた第3回「学童歯磨教練体育大会」で、参加した子供たちにプレゼントされたものかもしれません。
サイズは縦約20cm×横約14cmあります。
笑顔の少女が描かれた型紙と、涙を流している少女が描かれた型紙と、その間にハトメ(両目の間の○がハトメ)で留められた紙製の回転盤で出来ています。頭部上に少し出ている回転盤を回転させると、少女の口もとの表情が変わるような仕掛けになっています。
まず、笑顔の少女の表情変化を見ましょう。
回転盤を動かすと、説明文は「ウヘシタミガケ」「ミガイテネヨウ」「ノマズニヨクカミ」「ハニヨイタベモノ」「キレイナハ」「モモイロノハグキ」「ケンコウノコドモ」と変わり、これに合わせて口もとの表情も変わるようになっています。面(1)は「ミガイテネヨウ」の表情、面(2)は「キレイナハ」の表情です。
泣き顔の少女の表情は、「ヨクハヲミガカズ」「ズキズキイタム」「ムシバガデキ」「キタナイハナラビ」「ビョウキノモト」「トウトウラクダイ」「イソイデナホセヨ」
と変わり、ムシ歯や歯並びが悪くて泣いている表情になります。面(3)は「ズキズキイタム」の表情、面(4)は「イソイデナホセヨ」の表情です。
これは宣伝物というよりも、ムシ歯を予防して健康になろうという精いっぱいの啓発を込めた教材といった方がよいかも知れません。

(1)表情が変わる印刷物

(2)笑顔の面(昭和9年)

(3)表情が変わる印刷物

(4)泣き顔の面(昭和9年)

折り方を変えると変わる・・・

先に紹介した表情の変わる宣伝物は、ずいぶんと凝った作りですが、もっとシンプルなものもあります。
下は昭和30年(1955年)製の「うつくしく」と表題のあるパンフレットです。
仕掛けは、下のように三つ折りになっていて、女性の顔写真の口もとが切り抜かれているだけのことです。折り方を変えるだけで、この口もとの穴から異なった歯が見えるようになっているのです。

最初は、上の写真のとおり、真珠のようなきれいな歯をした美人がほほえんでいます。ところが折り方を変えると、左下のように汚い歯が現れます。せっかくの美人も、ムシ歯や歯が汚れていたのではだいなしというわけです。
歯がきれいか、汚れているかでこんなにも印象が違ってしまうのですね。
このパンフレットは、あまりにもぎょっとするような生々しさがあるためか、昭和32年(1957年)になると、商品の意匠改訂に時を合わせて、美人の顔は右下のようなイラストに改められています。

パンフレット「うつくしく」表紙
(昭和30年)

パンフレット「うつくしく」表紙
(昭和32年)

さて、この二つのパンフレットでは歯の美しさをどのように訴えていたのでしょうか。
「近代的な美しさ」と「顔の美の基礎-口もとを美しく」という二つの記事が掲載されています。
その一部を紹介しましょう。
今日では、歯についての関心は、若い女性を中心にムシ歯や歯周病の予防ばかりでなく、もっと積極的に歯の美しさを追求する審美歯科へ向いていますが、ライオンでは、こんな時代から口もとの美しさの重要性を訴えていたのです。

「近代的な美しさ」より

「顔の美の基礎-口もとを美しく」より

「工作」する宣伝物

下の宣伝物は昭和初期のものです。屋根の左側が欠落しており、歴史資料として完全な姿でないのが少し残念です。
画風から判断すると童画や挿画で活躍した河目悌二氏のデザインによるものと思われます。
表面には洋風の家の前でラジオ体操をする少年が描かれています。少年はもう朝の歯みがきを終えていることがわかります。
裏面には家の中の様子が描かれています。
陶器の洗面台やベッド、スタンドがありますから、当時としては、とてもハイカラな住居です。
左の部屋には、歯みがきをする姉弟がいます。
洗面台に置かれているのはライオン歯磨本舗製の粉歯磨と水歯磨です。
右の部屋には歯をみがき終って寝ようとしている少年がいます。

「工作する」宣伝物(昭和初期)

さて、宣伝物の右上に書かれている「この絵の使ひ方」に従って工作を進めましょう。
屋根のミシン目に添って余分な部分を切り落とし、両端を合わせるように2つ折りにすると完成です。
下の写真は、仕組みがわかるように少し開いた状態となっています。
窓が両開きに開けられるようになっていますから(ミシン目が入っています)、それを開けてみましょう。すると、姉弟が歯みがきをしている姿が見えます。
裏側は玄関のドアが開けられるようになっていますから、これも開けてみましょう。
今度はドアとは反対側にあるベッドの部屋に置かれた練歯磨のチューブとガラスコップが現れます。
現在の感覚からすれば、なんとも他愛のないものですが、時代を考えると、当時の子供たちにはわくわくするような贈り物となったに違いありません。
なんとか歯みがきに関心をもってもらいたい、そんな願いが伝わってくる宣伝物です。

宣伝物を組み立てた状態