−発表資料−

2003年6月16日

発毛メカニズムの新発見
“世界初、ヒト男性型脱毛の脱毛部位における
遺伝子発現の解析に成功”


 ライオン株式会社(社長・高橋達直)生物科学センターでは、毛髪科学分野において育毛に関する研究を進めております。この度、徳島大学医学部皮膚科学教室との共同研究において、新育毛剤開発のアプローチの一環として、「男性型脱毛のヒトの脱毛部位(以下「脱毛部位」)」と、「男性型脱毛ではないヒトの非脱毛部位(以下「非脱毛部位」)」について遺伝子発現を網羅的に解析し、その発現状態に違いがあることを世界で初めて発見いたしました。なお、この研究成果は、『第26回日本基礎老化学会(2003年6月18〜20日 名古屋市熱田区熱田西町1−1 名古屋国際会議場)』において発表する予定です。


1.研究の背景
   近年、「男性型脱毛症」で悩んでいる人は500〜1000万人といわれていますが、その発症メカニズムはいまだに明確にされていません。しかし、男性型脱毛の改善に向けて、種々の作用メカニズム(エネルギー代謝改善、栄養補給、血行促進など)を訴求した多くの育毛剤が開発されており、当社では「エネルギー代謝改善」に着目し、既に優れた有効性の『ペンタデカン酸グリセリド(PDG)』を見出しております。
 一方、毛髪は、毛周期(ヘアサイクル;休止期→成長期→退行期)を繰り返しており(図−1)、毛髪の根元に存在する毛乳頭細胞がこのサイクルを制御しているといわれております。一般に遺伝的要因によって脱毛が発生すると考えられておりますが、こうした要因は毛周期を司る毛乳頭細胞において現れると考えられます。しかし、これまでは男性型脱毛において、遺伝的要因の研究は十分になされておりませんでした。そこでこの度、以上のことを明らかにすべく、「脱毛部位」と「非脱毛部位」について遺伝子発現を網羅的に解析し、その発現状態の違いを具体的に検討いたしました。
 その結果、男性型脱毛は、従来から男性型脱毛の発生メカニズムとして知られている「脱毛シグナル」の増加に加えて、毛周期が円滑に作用するための成長期を促す「発毛促進シグナル」の低下も大きく寄与していることを、世界で初めて発見いたしました。すなわち、育毛剤開発における新しい発毛理論のアプローチとして、成長期の「発毛促進シグナル」の機能強化も重要であることを見出しました。


2.新発毛メカニズムの解明
(1) 世界初 男性型脱毛の遺伝子発現の解析に成功
 「脱毛部位」と「非脱毛部位」の毛乳頭細胞を培養し、そのmRNAを抽出して遺伝子発現解析(DNAアレイ解析)を行なったところ、解析対象とした遺伝子のおよそ10%の遺伝子に差があることが確認されました。このうち、細胞の分裂・増殖に必要な細胞周期を司るタンパク質の遺伝子発現に変化が認められたことから、「脱毛部位」では毛乳頭細胞の活性に抑制がかかっている状態と考えられます。また、その他にも細胞の成長を促す複数の因子において遺伝子発現が低下していることが認められました。


(2) 「脱毛部位」における「発毛促進シグナル(BMP、ephrin)」を発見
 上記解析の結果、特に顕著な遺伝子発現の低下が「BMP(Bone Morphogenetic Protein;骨形成促進因子)」と「ephrin(血管新生誘導因子)」に認められました(図−2)。また、「BMP」と「ephrin」の毛組織に対する作用を確認したところ、毛包細胞の増殖を促す作用があることが確認されました(グラフ−1)。
 以上のことから、「BMP」「ephrin」が男性型脱毛に関わる「発毛促進シグナル」であることが確認されました。


3.新発毛メカニズムに基づいた革新的育毛剤開発へのアプローチ
 前述の結果から、「脱毛部位」では、「BMP」と「ephrin」の遺伝子発現の低下が毛の成長を妨げていることが示唆されました。そこで、この現象を改善すれば毛周期が正常にまわり、毛の成長を促進することができると考えました。すなわち、脱毛状態を正常な状態に回復させるためには、1)毛乳頭細胞からの「発毛促進シグナル」増幅と、2)「脱毛シグナル」の遮断が重要であることから、この1)2)の作用を有する物質を探索した結果、植物成長促進物質(核酸系アミン化合物)で、育毛効果が認められている「6−ベンジルアミノプリン(サイトプリン)」に、この2つの作用があることを見出しました。
※「6−ベンジルアミノプリン」はヒトでの有効性が認められていますが、詳細なメカニズムは未だ解明されておりません。


(1) 「6−ベンジルアミノプリン」の「発毛促進シグナル」の増幅効果を確認
 毛乳頭細胞を用いた系に「6−ベンジルアミノプリン」を添加し、遺伝子発現解析(DNAアレイ解析)を行なったところ、51種類の遺伝子に変化が認められました。このうち、発毛に関与する重要な因子「BMP」と「ephrin」の遺伝子発現が増加することが確認されました(図−3)。すなわち、「6−ベンジルアミノプリン」には成長期毛の成長を促進する作用があり、毛周期の「発毛促進シグナル」の増幅効果があることが確認されました。
(2) 「6−ベンジルアミノプリン」の「脱毛シグナル」抑制効果を確認
 脱毛時の現象を引き起こさせる状況で培養したヒトの毛包ケラチノサイトを用いた系に「6−ベンジルアミノプリン」を添加したところ、「6−ベンジルアミノプリン」に「脱毛シグナル」の抑制作用があることが確認されました(グラフ−2)。すなわち、「6−ベンジルアミノプリン」には抜け毛を抑制する作用があり、短縮された毛周期を正常な状態に回復させることが示唆されました。


 以上、新育毛剤の開発へのアプローチの一環として、「脱毛部位」と「非脱毛部位」の毛乳頭細胞の遺伝子発現解析を行ない、従来から知られている「脱毛シグナル」による毛周期の退行期促進に加え、毛周期が円滑に作用するための成長期への移行を促す「発毛促進シグナル」の低下も重要であることを発見いたしました。この新発毛メカニズムを解明したのは、当社が世界で初めてです。
 さらに、この新発毛メカニズムに基づき、「6−ベンジルアミノプリン」を用いて、(1)毛周期の「発毛促進シグナル」の増幅と、(2)「脱毛シグナル」の抑制を検証し、「6−ベンジルアミノプリン」の作用メカニズムを解明したことで、新育毛剤開発へ新たなアプローチの可能性が示唆されました(図−4)。
 今後も、これらの技術を応用した「革新的な育毛剤」の開発を目指し、鋭意研究を進めていく予定です。


【第26回 日本基礎老化学会】発表概要
開催日: 2003年6月18〜20日(ポスター展示、説明20日)
会 場 : 名古屋国際会議場
演 題 : Genetic analysis of DPC related to alopecia、and the effect of 6-benzyl aminopurine (6BA)on it.
発表者  ライオン株式会社 研究技術本部 生物科学センター1)
徳島大学医学部皮膚科学教室
翠川 辰行1)、近澤 貴士1)、吉野 輝彦1)
高田 康二1)


  <補足資料>PDF



以上

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