Chapter02商品への愛着が、「クイックメルト製法」を生み出す
安達 喜世
入社以来、一般用医薬品分野における研究開発者として、様々な商品開発に関わる。
数年前からはバファリンチームのメンバーとなり、『バファリンかぜEX』の処方設計、有効性評価の側面から貢献。
ブランド・プロミスを果たすには、新技術を開発するしかない
長い歴史を持つバファリン・ブランドが展開する、新しいコンセプトのかぜ薬。その研究開発に携われる喜びは、研究開発チームのモチベーションを大いに高めたと、研究員の一人、安達喜世は振り返る。
「研究開発チームが、発熱やのどの痛みを抑える有効成分として着目したのは、イブプロフェンでした。しかし、イブプロフェンには水に溶けにくい欠点があり、そのままでは『速く効く』という解熱鎮痛薬バファリンのブランド・プロミスを守れません。水に溶けやすくする技術開発が最大の課題だと全スタッフが認識し、課題克服に向かって挑み始めたのです」
イブプロフェンは、なぜ水に溶けにくいのか。それを解決するために着目したのは、結晶の大きさだ。イブプロフェンの結晶は数十ミクロンと大きかったため、理論的には、それを粉砕して細かくすれば溶けやすくなる。しかし、人間の体内で薬が溶けるには、消化液と触れあう表面積が、ある程度、必要になる。 「ただ粉砕すればいいというわけではなく、問題は『どこまで粉砕すればいいのか』を見つけることにありました。さらに、少し温度を上げるだけでも結晶が溶けてしまう、イブプロフェンの性質が、技術開発を一層、難航させたのです」
そうした困難を乗り越えられた理由の一つに、研究開発チーム内でのディスカッションのしやすさがあると安達は感じている。
「縦割りの組織ではないので、別セクションのメンバーとすぐに意見交換できる環境にあります。また、自らアイデアを出し、次はこれでやろうと主体的に取り組む過程では、生活者がどういうシチュエーションで、どんなときに使うのかといった“生活シーン”を思い浮かべるようにしています。例えば『会社に行きたいけれど熱が出た』という人を思い浮かべると、『もっと速く溶けるようにしなければ』と、やるべきことが明らかになる。研究者は、想像力がとても必要な仕事なんですよ」
結晶の粉砕は10ミクロンが限界点だと分かり、さらには、水になじむ水溶性高分子をコーティングすることで、溶けやすさを高める技術も開発された。かぜの有効成分イブプロフェンを水に溶けやすくする技術が、完成するまでに約2年。バファリンの研究開発チームの熱い想いが、新技術「クイックメルト製法」として結実したのだ。
イブプロフェンが速く溶ける「クイックメルト製法」