Chapter01次世代の液体洗剤で、市場を変える。
岡本 貴弘
プロセス開発センターの研究員として、長年、洗浄成分『MEE』の研究開発に携わる。その経験をもとに、「トップNANOX」の新商品開発では、性能革新チームのリーダーを務め、組織を成功に導くコア人材として活躍。
超コンパクト液体洗剤が実現する、技術のタネが見つかった
洗剤マーケットは今、激動の時代を迎えている。長年にわたり主流だった「粉」から「液体」へと移行が進み、ついにシェアが逆転。拡大するマーケットでシェアを獲得しようと、さまざまな液体洗剤が商品投入されるなか、世間を驚かせたのが、超コンパクト液体洗剤『トップ NANOX(トップNANOX)』の登場だった。画期的な「ナノ洗浄」をキーワードに、「超コンパクト液体洗剤市場」という新たな市場創出を目指した次世代の液体洗剤トップNANOX。その誕生までの道のりは、決して平坦なものではなかった。
トップNANOXの主たる洗浄成分『MEE』は、ライオンが独自開発した植物由来の界面活性剤だ。衣類から汚れを除去する役目を果たす界面活性剤は、有機物なので洗剤の使用後に二酸化炭素が発生してしまう。環境に配慮した洗剤を作るには、石油由来を減らし植物由来の界面活性剤を増やすことが必要になる。ライオンではパーム油やヤシ油から作った界面活性剤『MES』が開発され、91年に世界で初めてMESの工業化に成功。以来、『トップ』をはじめとする粉ヘビー洗剤にMESを使用していたが、一方で、さらなる可能性を求め、液体向けの界面活性剤としてMEEの研究開発も1980年代後半から進められていたのだ。当時、MEEの研究開発チームの一人だった岡本貴弘は、こう振り返る。
「92年には『液体ハイトップ』に使用されましたが、脇役にすぎませんでした。当時、見つかっていたのは、従来の界面活性剤と同レベルの性能でしたから、アピールできるのは“植物生まれの洗浄成分”という目新しさだけだったのです」
しかも、今ほどに「環境」が意識されていない時代。MEEに対する注目度は高まらず、表舞台に立つ機会も訪れない。それでも、研究者たちはあきらめず、MEEの性能を探り続けたという。
「新たな性能が見つかる確証が、あったわけではありません。けれど、環境に配慮した洗剤を作るために、MEEが貢献できるのは間違いない。たとえ、製品化になかなか結びつかなくても、正しいことをしているのだという自負が、私たちのモチベーションだったのです」
その後、岡本が別部門に移っても、新たなメンバーにその意志は引き継がれていく。そして10数年の時を経て見つかったのが、「高濃度で配合しても固まらない」という性能。それはまさしく、環境にやさしいということだけではないMEEの最大の特徴、液体洗剤のコンパクト化を可能にする “技術のタネ”だった。