ライオン最古のカタログ

大正4年発行のカタログ
(表紙)

ここでご紹介するのは大正4年(1915年)に発行されたライオン最古のカタログです。現存するカタログとしてはライオンで最も古いものです。
実は明治43年にも型録(カタログ)が発行されている記録がありますし、メーカーにとっては必需品ですから、これ以外にも古いものがあるに違いないのですが、残念ながら見つかっていません。
この大正4年のカタログは、縦19cm×横13cmの大きさで、A5版より少し小さめです。
上質な厚手の紙が使用されており48ページ、表紙はカラー印刷で、中は白黒です。
表紙の図案は全体が盾の形になっており、雄ライオンの顔をイメージしていると考えられます。
色調は渋くて淡く、いわゆる“大正ロマン”を感じさせるものとなっています。
そして、ご覧のように表紙は英語標記のみです。
右下の日本文字は紺のスタンプ印で、社名変更となった昭和24年以降に押されたものです。「佐藤」は朱肉の認印で、たぶん当カタログの所有者のものでしょう。表紙をめくると、中扉にはじめて「製品目録 ライオン歯磨ライオン石鹸本舗 小林富次郎」の日本文字が現れます。

3カ国語で書かれた会社案内

表IVのカット

また、これはカタログ(製品目録)とはなっていますが、たんに製品を紹介したものではありません。本社屋、工場、研究所、営業所や口腔衛生活動などの紹介からライオン歯磨発売沿革まで掲載された総合的な会社案内書です。しかも、二代社長小林富次郎の序文をはじめとして、要所要所が日本語、中国語、英語の3カ国語で書かれています。
「獅子印ライオン歯磨」は中国語で「獅子牙粉」、英語では“LION BRAND DENTIFRICES”と訳されています。

この当時、小林富次郎商店は営業拠点として大阪支店、名古屋支店、天津支店、漢口支店を持ち、香港、マドラス、コロンボ、ボンベー、カルカッタ、ラングーンなどには代理特約店を設置していました。したがって、このカタログは広く海外でも使用するために作成されたものと思われます。

そして、製品価格が1箱単位のメーカー出荷価格で記載されていますから、販売店向けのものであることもわかります。注文の仕方も詳しく記載されています。流通の発達していなかった時代ですから、カタログ販売は、今日とは違った意味で重要な役割を果たしていたと想像できます。

それでは、さらにページをめくると、4ページには以下のように、大蔵省主税局調査『大正二年外国貿易概覧』から、「重要輸出品の状況:歯磨の部」が抜書き掲載されています。

「本年本品の輸出は、支那を第一の販路とし、更に印度方面に於て著しき発展を来し、其他南米方面に於ても纏まりたる数の賣行あり。輸出の品は、依然東京小林製のライオン印最も多く、英米向として需要あるのみならず、本年メキシコ方面も纏まりたる賣行あるに至れり」

注目製品

さて、カタログ(製品目録)の本篇です。
製品は、

  • 粉歯磨:32品目
  • 練歯磨:6品目
  • 水歯磨:4品目
  • 歯刷子:3品目
  • 石鹸:13品目

合計58品目が掲載されています。
この時すでに、小林富次郎商店の事業は石鹸よりも、後から始めた歯磨が中心になっていることがわかります。

この製品紹介のページには、左図版のように写真ではなく版画の技法で描かれた細密画が使用されています。
これは当時の写真印刷の技術が低かったために、製品をより鮮明に見せるために使われた手法です。
この中から興味ある製品を紹介しましょう。

まず、ライオンの歴史をつくった「獅子印ライオン粉歯磨」です。
図版の上と中、「ライオン歯磨」小袋入の差がわかりますか?
上が国内向け、中が支那(中国)向けの製品です。
そして、下の2つが大袋入と特大袋入。同じ「ライオン歯磨」でもかなり異なったデザインだったのですね。 では、「ライオン歯磨」小袋入の記載事項を詳しく読んでみましょう。

まず、荷姿のことが書いてあります。
これによれば、1箱は4ダース入で、60箱を1梱としています。
したがって、1梱は 12×4×60=2,880コ入 です。
また、この1梱の大きさは約8才とあります。
才(さい)とは容積を表わす単位で1才=1立方尺です。約8才とありますから一辺が約60cmの立方体の大きさになります。
そして重量は約120斤=約72kgです。
今日の感覚からすると、1梱はずいぶん大きく重かったのですね。

左:小袋4打ボール函入
右:小袋

次に価格のことが書いてあります。
1箱(48コ)単位で表示してあり76銭です。
当時、一般的に売られていた小売価格は1コ3銭ですから、このメーカー出荷価格は小売価格に対して52.8%(5.28掛)となります。
これは「荷造運賃保険料等出荷に関する諸費用」はすべて販売業者側が負担する条件のもとでの価格です。今日の価格体系と比べても、なるほどと思わせるものではないでしょうか。

「ライオン子供歯磨」
小袋裏コピー

「ライオン子供歯磨」も興味ある製品です。
これはすでに大正2年12月に発売になっています。
盾を持った子供の騎士が、歯刷子をもってムシ歯菌と戦う様子が描かれています。この図版ではわかりにくいのですが、盾には雄ライオンの顔が描かれており、カタログの表紙のデザインと相通じるところがあります。
裏コピーも楽しい内容です。ぜひ読んでみてください。

歯磨の珍品

歯磨の珍品としては、「萬歳歯磨」の一つで輸出専用品「娘印萬歳歯磨」“Musume”Brand“Banzai”Tooth Powder を紹介します。
「萬歳」はマンザイではなくてバンザイと読みます。
極東の一小国だった日本が日清・日露戦争に勝って世界に知られることとなり、「バンザイ」は世界に通用する言葉になりました。歯磨だけでなく、このころ日本から輸出される多くの商品に「バンザイ」の名称がつけられました。
図版のように、いかにも日本(東洋)を意識したデザインと、“娘”と“萬歳”のダブルブランドのようなネーミングが楽しいではありませんか。