感染症対策には、外から家庭内への細菌やウイルスなどの持ち込みを防ぐことと同時に、家庭内での衛生行動も重要です。
家庭で特に汚れやすい場所の1つとしては、トイレが挙げられます。
それではトイレを清潔に保つにはどのような点に注意したら良いでしょうか。
ライオンの調査では、トイレの床のホコリには多くの菌が含まれていることがわかっています。
(一般住宅の浴室・トイレにおける微生物汚染と対策 室内環境(2019))
また、2020年2月のクルーズ客船ダイヤモンドプリンセス号における新型コロナウイルス感染症集団発生に関する船内環境調査では、客室内の「ライトスイッチ」「ドアノブ」「トイレボタン」「トイレ便座」「浴室内トイレ床」「椅子手すり」「TVリモコン」「電話機」「机」「枕」のうち、最も新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)(遺伝子RNA)
の検出頻度が高かったのは「浴室内トイレ床」でした。
(※国立感染症研究所「ダイヤモンドプリンセス号環境検査に関する報告」より)
それではどうしてトイレには菌やウイルスが数多く存在するのでしょうか。
まず、トイレには尿や便などの排泄による汚れがあります。
尿汚れに着目した、ライオンの調査では、立って小用をされる人がいる場合、家庭のトイレの床には約2,300滴もの尿ハネが飛び散っています(男性1人1日あたり。ライオン調べ)。
(「トイレにおける尿の飛散実態と微生物汚染の相関」第57回日本家政学会)
着座スタイルであっても尿ハネは防げません。ライオンの検証によると、着座スタイルでは便器の外側への飛び散りは減るものの、便座の裏側には1回の使用につき男性で約200滴、 女性の場合は500滴もの尿ハネが飛び散っていました。また、尿ハネの多い場所では、尿中に含まれる尿素が菌で分解されることにより異臭の元となるアンモニアが発生します。
さらに、トイレはホコリが溜まりやすい場所でもあります。
まず、服を上げ下げすることで、服の繊維や服についていた髪の毛などが落ちます。また、トイレットペーパーを引き出すとき・切り取るときには、トイレットペーパーの細かい繊維くずが天井に達するほど舞い上がります。これらがトイレのホコリの正体です。
ライオンが首都圏7家庭のホコリを分析したところ、すべての家庭のホコリから菌が検出され、特にトイレについては半数以上の家庭からホコリ1gあたり100万個レベルの菌が検出されました。
【トイレのホコリ1gあたり百万個以上の菌が検出された家庭は、6割近くに】
また、ホコリと菌の関係を調べると、ホコリは菌を増殖させることもわかりました。ホコリと共存している菌は、ホコリなしの場合と比べて、24時間後には約10倍も多くなるのです。
【「ホコリの有無で24時間後の菌の数が10倍も違う!」】
トイレのホコリは、多くの菌がいるだけではなく、ホコリ自体を栄養にしてさらに菌が増えていることが確認されました。
トイレは1日を通して家族全員が使うものであり、人の出入りが多い場所ということができます。
実はこの人の出入りにより、トイレの床に堆積したホコリは人の顔の高さにまで舞い上がっているのです。
ライオンが高感度カメラを使って調査したところ、人の出入りによってホコリがトイレの床から1.5メートル以上の高さまで舞い上がる様子が確認されました。下記画像では、人が入る前と入った後を比較し、入った後では、白くホコリが散乱している様子が確認できます。
大人が便座に座っているときの顔の高さである「床から90cm」で見ると、ドアの開閉前後でホコリの粒子の数は約1.6倍に、足元付近である「床から20cm」の高さでは約3.2倍になることがわかったのです。
(ホコリの舞い上がり性評価)
【ドア開閉によるホコリの舞い上がり】
おうち時間が増えて、必然的にトイレの使用回数が増えている今、便器の内外だけでなく、床もこまめに掃除して、ホコリをためないようにすることが大切です。
トイレ専用のスリッパは必要なのか、家庭によって考え方は分かれるでしょう。
トイレスリッパを使っている家庭もあれば、様々な理由で使っていないという家庭もあると思います。
しかし、トイレの床がホコリと菌にまみれている以上、トイレスリッパは非常に重要。トイレスリッパを使っている家庭と使っていない家庭で、トイレ内の床とトイレ入り口前の床の汚れの違いを調べたところ、スリッパを使っていない家庭ではトイレの入口前にも汚れが多く検出されました。つまり、スリッパを使っていない家庭では、足の裏を介してトイレ室内の汚れがトイレの外にまで移動しているといえるのです。
【トイレ内の床とトイレ入口前の床の汚れの違い】
トイレの床に関する衛生行動のポイントは以下の2つ
・床も含めたトイレのこまめな掃除を心がける
・トイレスリッパを使用する
トイレは常に清潔に保ち、トイレ内の汚れは家中に持ち出さないようにしましょう。
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