感染を知る

衛生の基本をおさらいしてみよう

感染とは

私たちのまわりには、たくさんの微生物がいます。微生物とは目に見えないくらい微小な生物の総称で、藻類の仲間やアメーバなどの原生動物、細菌 、酵母・カビなどの菌類、ウイルス などが含まれます。(※注:ウイルスは、自己増殖ができず代謝を宿主に依存するので、生物とは言い切れませんが、ここでは、生態系を構成する一員としてウイルスも微生物の仲間としています。)

微生物には、乳酸菌や酵母など人間にとって有益なものも多く存在します。
微生物は私たちの生活に欠かせません。それどころか、私たちは微生物と共生しています。健康な人でも、皮膚や口・鼻の中、のど、気管、胃腸、尿道などに様々な微生物がいます。私たちの体には、人間の細胞の数よりも多い100兆個を超える数の微生物が存在するといわれています。これらは「常在菌」と呼ばれ、その多くが人に何の害を与えることなく、種類によっては我々の消化や生理的な働きを助けてくれています。

しかし、中には人の身体に害をもたらし、病気を引き起こす微生物もいます。これらを「病原体」といいます。インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス、腸管出血性大腸菌(O157)といった、細菌やウイルス等が当てはまります。
病原体は大気、水、土壌などの環境、人を含む動物などの体内など、様々な場所に存在します。それらの病原体が人の体内に侵入し、発育又は増殖することを「感染」といいます。

■「感染源」「感染経路」「宿主」

感染は、「感染源」「感染経路」「宿主」の3つの要素が揃うことで起こります。

感染の原因になる3要素

■「感染源」

「感染源」とは、病原体を含み、感染の原因となるもののことです。
病原体に感染した人(感染者)・動物・昆虫が感染の原因になるほか、感染者や感染動物などの排泄物・吐しゃ物・血液・体液なども感染源となります。
さらに、病原体で汚染された物や食品も感染源です。感染者や感染動物が物や食品に触れることで、その物や食品が病原体で汚染され感染源となる可能性があります。食中毒のように、食品の原材料が病原体に汚染されている場合もあります。
これらの感染源と接触しない、または取り除く手段として、「隔離」や「殺菌・消毒」などがあります。ただし隔離については、症状が現れない無症状感染者もいるため十分に行うのは難しい場合があります。

「感染経路」

「感染経路」とは、病原体が新たな宿主にどのように伝わったかの過程のことです。感染経路を特定し、断つことは非常に有効な感染対策となります。
主な感染経路として以下の4つがあります。

① 接触感染(例えば、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、疥癬、ロタウイルスなど)

皮膚や粘膜の直接的な接触のほか、ドアノブ・手すり・つり革などの表面に付着した病原体を手で接触、病原体が付着した手で目や鼻や口に触れることにより粘膜から感染します。
感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、その手で直接手をつないだり、その手で触ったものを他の人が触ることも、接触感染に繋がります。

② 飛沫感染(例えば、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、風疹ウイルス、レジオネラ属菌、溶連菌、百日咳菌など)

会話やくしゃみ・咳などをしたときのしぶき(飛沫)を介して病原体を吸い込むことで感染します。飛沫とは、直径0.005mm以上の粒子をいい、1~5m程度の範囲で床に落下します 。

③ 空気感染(例えば、はしかウイルス、水疱瘡ウイルス、結核菌など)

飛沫の水分が蒸発した飛沫核(エアロゾル)など、直径0.005mm未満の粒子が空気中を浮遊し、それを吸い込むことで感染します。

④ 媒介物感染 経口感染(ノロウイルス、ポリオウイルス、サルモネラ菌、カンピロバクター、赤痢菌、コレラ菌など)

病原体を含む水や食べ物を摂取することで感染します。いわゆる「食中毒」は経口感染といえます。なお、 化学物質(農薬など)や自然毒(キノコ、フグ)による食中毒は、病原体が原因ではありませんので、感染症には分類されません。

ベクター感染

動物の中でも節足動物が媒介者(ベクターとなって)、感染成立ものをいう。蚊、ツツガムシ、ダニ、等が媒介生物として知られる。

感染を予防するためには、病原体の感染経路を知った上で、その経路を遮断する対策を行うことが基本となります。
接触感染や経口感染に対しては「殺菌・消毒」「加熱」「ゴム手袋をする」など、飛沫感染や空気感染に対しては「マスクをする」「人混みを避ける」「換気」などの方法で病原体との接触機会を減らすほか、「手洗い」「うがい」などで接触した病原体の量を減らすことも感染対策となります。

感染経路4種

「宿主」

「宿主」とは、感染を受ける人のことです。
また、感染する可能性が高い、いわゆる感染しやすい人のことを「感受性宿主」と呼びます。
感染症は、誰もがかかる可能性があります。かかりやすさには個人差がありますが、一般的に、抵抗力の弱い人(高齢者や乳幼児など)や基礎疾患をもつ人は感受性宿主と考えられます。
手洗いの励行、うがい、人混みを避けるなど感染しないように注意を払い、周囲の人も感染させないように配慮することが重要です。

さらに、抵抗力が非常に弱くなると、通常ではほとんど病気を起こさないような病原体に感染し、病気になることがあります。これを「日和見感染症」といいます。
宿主に関する感染対策としては、感染を受ける側が体の抵抗力を強くすることが挙げられます。
また、病原体に対する免疫を獲得することにより感染症を予防する方法として、「ワクチン」があります。

感染症とは

病原体が体に侵入して感染が起こっても、必ずしも発症するとは限りません。
病原体に感染した結果、全身・消化器・呼吸器・皮膚症状といった、何らかの臨床症状が現れた状態を「感染症」といいます。
なお、病原体が侵入してから症状が出るまでの期間を「潜伏期間」といいます。

感染症の例としては、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、RSウイルス感染症、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)、レジオネラ症、流行性角結膜炎、咽頭結膜熱(プール熱)、ヘルパンギーナ、感染性胃腸炎、手足口病があります。

感染症の症状

食中毒とは

食中毒とは

食中毒とは、食品が原因となって起こる、下痢や腹痛、発熱や吐き気などの胃腸炎、神経障害等の中毒症の総称です。
食中毒には、細菌が原因物質となる食中毒、ウイルスが原因物質となる食中毒、寄生虫が原因となる食中毒、化学物質が原因となる食中毒、毒キノコ、フグ毒、かび毒など植物由来や動物由来の自然毒が原因となる食中毒などがあります。

このうち細菌性食中毒は、発症機構により感染型と毒素型に分けられます。
感染型食中毒とは、食品中で一定数以上に増殖した原因菌(サルモネラ属菌、リステリア菌、腸炎ビブリオ、エルシニア菌等)を食品とともに摂取した後、原因菌が胃を通過して腸管内でさらに増殖して発症する食中毒です。
毒素型食中毒とは、食品中で原因菌が増殖し産生された毒素の摂取によって引き起こされる食中毒のことで、黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、セレウス菌、腸管出血性大腸菌(O157)、ウエルシュ菌等が原因菌となります。
ウイルス性食中毒は、ウイルスが蓄積している食品を摂取することで起こる食中毒のことです。 ウイルス性食中毒のほとんどがノロウイルスによるものであり、また年間の食中毒の患者数の約半分はノロウイルスによるものです。
ノロウイルスは感染力が強く、集団食中毒など大規模な発症を起こしやすいため注意が必要です。

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