ライオンでは、「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」をパーパス(存在意義)に掲げています。
健康のために、毎日続けた方がいいこと。やらなければいけないとわかっていること。そうした「正しさ」は、私たちを支える一方で、ときに「続かない」「苦しくなる」という壁にもつながります。一方、義務感に頼らなくても気づけば自然と続いている習慣も存在します。その違いはどこにあるのでしょうか。
2009年にデビューし、アーティストとして活動する吉田山田の2人と、公益財団法人ライオン歯科衛生研究所でオーラルヘルスケアの啓発活動を行う歯科衛生士・松浦さん。異なるフィールドで活動する3人が語ってくれたのは、「習慣は、意志力だけでつくるものではない」ということでした。
必要だから続く習慣。楽しいから続く習慣。誰かと一緒だから続く習慣。音楽と歯みがきを入り口に、「自然と続く」の正体について考えます。
音楽と歯みがき。異なる現場で身についた「独自の習慣」
一見、交わらないように思える「音楽」と「歯みがき」。しかし、それぞれの領域で活躍するプロの日常を覗くと、そこには日々の活動や経験のなかでいつの間にか身体に馴染んでいった独自の習慣がありました。
山田:毎朝起きたときに、声を出して喉のコンディションを確認します。「はっはっは」とか「へいへいへい」と声出しをして。僕の場合は声が楽器ですし、ライブでもレコーディングでも、くしゃみを1回するだけでいつもの声と変わってしまうことがある。だから「声が出ないと自分が困る」という思いが強いんです。昔は意識していませんでしたが、デビューして人前に立って歌うようになってから自然と身についた習慣ですね。
松浦:私は歯をみがくとき、気づくと下の内側ばかりみがいています。多くの患者さんを見てきてわかったことですが、じつは下の歯の内側はみがき残しが多い場所なんです。だから自然と意識が集中しているのかもしれません。
「声が出ないと自分が困る」という必要性からはじまった行動も、多くの患者さんと向き合うなかで自然と刷り込まれた視点も、どちらも日々の生活のなかで意識せずとも身体が勝手に動くルーティンへと変わっていったもの。
さらに、吉田山田のお二人には、「お互いの波長」を合わせるために長年続けている、本番前の大切な習慣もあるそうです。
吉田:僕ら、本番前に必ずハグをします。しかも結構長くて、30秒くらい(笑)。本当に不思議なもので、僕たちは2人とも同時に緊張して駄目とか、2人とも緩みすぎて駄目ということはあまりなくて。僕がすごく緊張しているときは山田がすごく緩んでいて、そのまた逆もある。それでハグをするとなんとなくお互いの心拍数が合うというか、意識が合う感覚があって、それで2人が同じ調子でステージに立てている。デビュー当時からずっと続けている、僕らのルーティンです。
でも、これは僕らならではのかたちだと思います。芸人さんでも、ステージに上がるまで相方と一切会わない、一言も会話を交わさないというスタイルの方もいますよね。だからどういう習慣が正しい、というのはない気がします。お互いリラックスできて、パフォーマンスを最大化できる方法が、僕たちにとってはハグだったんですね。
日々の習慣の背景には、外側から与えられた正しさだけでなく、自分たちのこれまでの経験から生まれた「切実さ」や「心地よさ」が、過不足なく組み込まれているようです。
完璧を求めない。「続けられない自分」を誰かと補い合う
何かを新しく始めるとき、私たちはつい「毎日完璧にこなさなければ」と意気込んでしまいがちです。けれど、いつの間にか心が折れてしまうことは少なくありません。習慣を続けることの難しさについて、松浦さんも意外な本音を明かしてくれました。
松浦:じつは私、健康に携わる仕事をしているからといって、全部の習慣が完璧に続いているわけじゃないんです。サプリメントとかは全然続けられなくて、気づいたら飲まなくなっていることが多いです(笑)。
「続けようと思っていたのに、気づいたらやめてしまっていた」──その理由は、単に意志の弱さだけではないようです。
高校の同級生の頃から20年以上歩みを共にしてきた吉田山田の2人も、かつて「すべてを完璧にこなそうとして、無理を重ねていた時期」があったと振り返ります。
山田:僕らはこれまでの活動のなかで2人が同じくらい全部を頑張っていた時期は、結構しんどかった気がします。僕とよっちゃんは性格も全然違うし、才能の秀でているところも違う。そのことは理解しつつも、昔は同じことに対して同じくらい努力をしないとやっていけないんじゃないかと思っていました。
でもあるとき、それぞれ個人で曲作りをしてみたら、全然カラーの違うものが生まれて、「これはこれでいいね」ってなって。そこから次第に、お互い得意なことを伸ばしつつ、苦手な部分は相手を頼るようになりました。よっちゃんはラジオの司会進行が得意だから任せてみたり、よっちゃんは夜型で僕は朝型だから曲作りもバトンタッチするかたちで進めてみたり。そうすることで、ようやく2人組が1つの個になれたような感じがしました。
吉田:僕もとっても楽になりました。自分の得意も活かせるし、苦手なところは頼っていいんだみたいな。たぶん若いころはプライドというか、「自分もやっているんだぞ」っていう、誰かに評価してもらいたい、褒めてもらいたいみたいな気持ちがどうしてもあったんだと思います。でも年齢とともに、いろんな試行錯誤を重ねて、自分の良いところを見てくれている人はちゃんといる、ということに気づきました。だから状態としてはいまが一番良いと思っています。
完璧さを求めないこと。そして、できない自分を責めず、誰かに頼ること。「1人で頑張りすぎない」この姿勢は歯みがきという習慣にも重なります。
松浦:歯みがきはもちろん大事ですが、私も完璧に続けられるかといったらそうではありません。できないときもあると思っているので、患者さんにも「絶対にやってください」ではなく、「できる限りやってください」と伝えることが多いです。
特にデンタルフロスは「毎日はできない」「わかっているけどできない」という方が少なくありません。でも、続けられない理由は人によってさまざま。だからまずはヒアリングをして、「どういう方法ならできそうですか?」と一緒に解決策を探していくようにしています。
先ほどの話ともつながりますが、習慣は、その必要性を本人が切実に感じることで定着するのだと思います。例えばスポーツを頑張っているお子さんだったら、「歯を食いしばる力ってすごく大事。そのためには丈夫な歯が必要なんだよ」という話をします。「歯みがきは自分に必要なことなんだ!」と納得できると、意識も変わる気がしますし、その人に合う伝え方を探すのは歯科衛生士の役目だと思うので、頼ってほしいですね。
凸凹を補い合い、他者に頼ること。それは、私たちが日々の習慣を無理なく、心地良く続けていくための大切な仕組みなのかもしれません。
義務感を楽しさに変える、音楽の力
ライオンが吉田山田と制作した歌、「イ~ハ~」は正しい歯みがき習慣を身につけるための楽曲です。「義務」を「楽しさ」へと反転させるためのこの楽曲は、彼らがある種のプレッシャーから解放され、リラックスした瞬間に思いがけず誕生したものでした。
山田:じつは「イ~ハ~」ができる前に候補を3曲作っていたんです。アレンジャーの兼松 衆にも相談しながら練りに練って仕上げたもので、なかにはラップ調のものもあって、どれもすごく良い出来でした。
それで、3曲作り終わって僕が休憩していたら、よっちゃんがギターで小気味良いフレーズを弾きはじめて「はい!歌って」と言ってきたんです。そしたら、「ハハハハ 歯をみがこう」って自分でも歌いはじめてしまって。「イ~ハ~」のサビが自然に生まれました(笑)。
結果的に「イ~ハ~」は3曲作り終わった後に、肩の荷が降りて、一番リラックスした状態で生まれた曲。でもなんとなく全員、つくりながらこの曲がいいなと思っていました。音楽にはこうした即興性というか、良いものが自然に生まれる瞬間をつくる力があるんだな、と思います。
歯みがきのうた「イ~ハ~」動画【アニメーション編】
作詞・作曲・うた:吉田山田 / え:山田義孝(吉田山田)
作り込んだものとはまた違う、その場の楽しさから生まれたエネルギー。松浦さんも、実際に学校現場でその音楽の力を実感しているそうです。
松浦:楽しさは現場の子どもたちにちゃんと伝わっていると思います。学校でも「イ~ハ~」を流しているところがたくさんあるんですけど、曲が流れると、「この時間は歯みがきなんだ」って先生が指示をしなくても身体が自然と動き出す子が多いそうです。
毎日繰り返す歯みがきをどうやったら楽しくできるか、というのは歯科衛生士としてつねに考えていることです。だから音楽によって、子どもたちが楽しみながら歯みがきしてくれると、これで良かったなと思えますね。
吉田:子どもたちの反応ってすごく純粋ですよね。「なんだか歯みがきが楽しくなる」とか、「ノリノリでみがける」とか、そういうことがこの曲ではすごく大事だったんだと思います。
それにリアクションはモチベーションにもつながります。僕らも活動を続けていてしんどいなと思うことはありますが、ステージに立って、お客さんの表情とか声を直接受け取ったり、新曲を出したときに「ありがとう」とか「おめでとう」と言われたりすると報われた気持ちになります。そういう反応があるから頑張れる部分ってすごくあると思うんです。
松浦:たしかに、私も働いていて一番いいなと思うのは、子どもたちの楽しそうな反応が得られたときです。「イ~ハ~」が歯みがきを好きになるきっかけになり、それがより良い習慣として定着すれば、その子の将来の健康を守ることにつながります。そう思うと、いまの小さな一歩に携われることに大きな喜びを感じますね。
「楽しい記憶」は、未来の自分のお守りに
音楽がもたらすのは、その場の一時的な楽しさだけではありません。子どものころに音楽とともに身体に染み込ませた記憶は、大人になった未来の自分を守るための、大切な思い出になっていきます。
山田:僕の小学校では、下校時間に「カノン」が流れていたんです。だからいまでもその曲を聴くと、当時の夕方の空気や、「もう帰る時間だ」という感覚を思い出します。音楽って、そのときの景色や感情まで紐づくものだと思います。
だから「イ~ハ~」も、「なんか楽しかったな」みたいな記憶として子どもたちのなかに残っていったらいいなと思うんです。ごはんを食べた後の時間とか、家族で歯みがきしていた時間とか。しかも歌詞のなかにみがく順番も入っているので、大人になっても自然と身体が動いてくれる気がします。
楽しい思い出として日常の習慣が残っていくこと。それは、生涯の健康を守るうえでも大きな意味を持つと松浦さんは話します。
松浦:歯みがきも、まさに同じことがいえます。「正しくやる」こと以上に、「楽しい記憶」として習慣が根付くことが何より大切なんです。
むし歯ができてから歯医者さんに行くと、どうしても「痛い」「怖い」という経験になりやすい。小さいころに治療で怖い思いをすると、大人になっても歯医者さんが苦手になってしまいます。
でも、定期健診で来てくれて、「上手にみがけているね」って褒められたり、家族で楽しく通ってくれていたりすると、「歯医者さんって怖い場所じゃない」という感覚のまま大人になっていけるんですよね。だから習慣は、正しさだけではなく、そういうポジティブな記憶と深く繋がっているのだと思います。
吉田:この「楽しむ」っていう感覚は、じつは大人にこそ必要かもしれないですね。子どもたちが持っているピュアな感覚を思い出しつつ、あらためて歯をみがく分数や順番を確認する。そうやって、毎日の習慣が「楽しい時間」に変わっていくきっかけになったらうれしいです。
毎日繰り返す習慣は、いつの間にか、その人の記憶や景色の一部になっていく。だからこそ、「正しいからやらなければいけない」という義務感だけで終わらせず、そこに音楽のリズムや楽しさを添えてみる。それだけで、毎日のルーティンは、未来の自分を支える心地良い時間へと変わっていくのかもしれません。