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研究活動:基盤技術研究:口腔科学

歯を支える歯周組織に注目した歯周病予防技術開発

私たちが日々の生活で感じる「食べる」、「話す」、「笑う」などの幸せは歯の健康に支えられています。歯は「ムシ歯」など、歯そのものの不具合だけでなく、その支えとなる土台が壊れることによっても失われてしまいます。図1は歯が口腔内でどのように支えられているかをイラストで示していますが、歯の土台となっているのは歯ぐきに加え、その下にある歯槽骨、歯根膜、セメント質などを含む歯周組織です。

図1 歯と歯を支える歯周組織

歯の土台となる歯周組織が壊れ、歯を失ってしまう代表例が歯周病です。歯周病は口腔内の細菌が原因となって起こる病気です。歯周病にかかると歯周組織がしだいに破壊されていくため、歯がぐらぐらと揺れるようになり、最後には抜け落ちてしまいます。また、この歯周病は日本人の成人の約7割が罹患しているといわれる国民病※1であり、歯を失う最大の理由※2となっています。

※1)厚生労働省 平成28年歯科疾患実態調査、30~69歳(歯肉に所見がある者の割合)
※2)公益財団法人8020推進財団「永久歯の抜歯原因調査報告」(2018)

最近の研究では、歯周病による歯周組織の破壊は、歯周病関連細菌の直接的な作用だけでなく、本来、菌から私たちの体を守っている免疫システムの過剰な応答が主な原因であることが明らかになってきています。ライオンではこのような歯周病に対して、歯周病関連細菌の殺菌だけでなく、生体の免疫反応や歯周組織に注目したホストケア技術の開発に取り組んできました。その一つが歯槽骨へアプローチする薬用成分の研究です。

骨は成長段階で形成されて終わりではなく、古くなった骨を壊し(骨吸収)、新たに骨を作る(骨形成)という新陳代謝を繰り返しています。健康な状態では、図2のように、骨吸収と形成のバランスがとれているため歯槽骨の量は一定を保っていますが、歯周病が進行すると、炎症により骨吸収が増加し、このバランスが崩れてしまいます。こうして歯槽骨の量が減少してしまい、最終的には歯の喪失に繋がります。

図2 健常時と歯周病進行時における歯槽骨の代謝

生体内において骨吸収を担っているのは破骨細胞です。破骨細胞は細胞核をいくつも有する多核の巨大な細胞で,免疫担当細胞の一種である単球・マクロファージ系の前駆細胞から分化誘導され形成されます。そこで、破骨細胞の分化を抑制することで、歯周病の進行に伴う歯槽骨の減少を予防できるのでないかと考え、医薬部外品の歯磨剤に配合可能な素材について調査を行った結果、オウバクエキスという成分に注目しました。

オウバクエキスはミカン科のキハダという樹木の周皮から抽出したエキスで、 “抗炎症”と“歯ぐきをひきしめる”作用から、ライオンが歯周病予防の有効成分として独自に承認を取得した成分です。近年、オウバクエキス中の主要成分であるベルベリンに破骨細胞の分化抑制効果が報告されたことから、オウバクエキスにも同様の効果を期待し、検証を行いました。

前駆細胞に分化シグナルを加え、破骨細胞の分化を促進し、オウバクエキスもしくはその主成分であるベルベリン塩酸塩を添加して破骨細胞分化への影響を解析した結果が図3です。溶媒のみを添加したコントール群では、多核の破骨細胞が形成されていることが分かりますが(写真:赤矢印)、オウバクエキスもしくはベルベリン塩酸塩を添加した群では、破骨細胞の分化が抑制され、形成される破骨細胞数が顕著に減少していることが明らかになりました。本研究により、歯周病予防成分として認められているオウバクエキスには、従来の抗炎症などの作用のほかに、歯槽骨吸収に関与する破骨細胞の形成を抑制するという、新たな歯周病予防に繋がる作用が見出されました。

図3 オウバクエキスによる破骨細胞分化抑制効果

これらの最先端知見を製品開発に応用し、歯槽骨を含む歯周組織全体をケア可能な新しい歯周病予防製品の導入へ繋げていきます。

口腔科学 研究事例紹介