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アルコール系溶剤を活用した防腐処方設計技術の検討

1.研究背景

私たちが日々使うハンドソープやシャンプー、衣料用や台所用の液体洗剤などは水分含量が高く、 “微生物のエサ”となり得る成分も豊富です。加えて、容器の開閉を繰り返したり、水が混入しやすい浴室や洗面台で使われたりするため、外部から細菌やカビが入り込みやすい環境にあります。もし製品の中で微生物が増殖すると、におい・色・粘度の変化が生じ、場合によっては健康被害につながるおそれもあります。こうしたリスクを抑えるには、防腐剤の添加に頼るだけでなく、pHや水分活性のコントロール、配合成分同士の相互作用など複数の視点を組み合わせた“多角的な防腐処方設計”が欠かせません。その一例として、アルコール系溶剤を活用した液体洗剤の防腐処方設計研究についてご紹介します。

※成分と結びつかず微生物が利用できる水(自由水)の割合を0~1で示した指標。値が低いほど、微生物が利用できる水分が少なく、増殖しにくくなる。身近な例として、ジャムや漬物は砂糖や塩で自由水を減らし、水分活性を下げて保存性を高めている。

2.アルコール系溶剤を活用した防腐技術の開発

製品の「防腐」とは、混入してきた微生物を様々な配合成分による殺菌的な作用によって減少させ、微生物の増殖を抑えることによって、製品の劣化を防ぐことを示します。そこで、本研究では、日用品で広く使われているアルコール系溶剤の「殺菌力」に着目し、製品への防腐効果を検討しました。
まず、高い殺菌力をもつ溶剤を選定するために、最小殺菌濃度(MBC)を測定しました。MBCは菌を死滅させるために必要な最小濃度を指し、値が小さいほど殺菌力が高いことを意味します。測定の結果、log P値(オクタノール分配係数)が大きい、すなわち疎水性が高い溶剤ほどMBC値が小さく、高い殺菌力を示しました(図1:▲)。
一方、防腐剤の殺菌効果は、液体洗剤に含まれる界面活性剤などと共存することで低下することが知られています。そこで、界面活性剤と各溶剤共存時の殺菌力についても評価すると、log P値が小さい溶剤では殺菌力は維持されましたが、log P値が大きい3-メチル-1-ブタノールでは、MBC値が高くなり殺菌力の低下が認められました(図1:◆)。

図1. アルコール系溶剤の親水・疎水性と殺菌力との関係
溶剤の物性と殺菌力の関係を比較するため、アルコール系溶剤としては、ブタノール骨格が共通する溶剤3種を選定した。

界面活性剤共存時に溶剤の殺菌力が低下した要因を検証するため、界面活性剤ミセル外側の水中に溶存している溶剤の濃度を測定しました。その結果、3-メチル-1-ブタノールは界面活性剤が共存する系で、相対溶剤濃度が30%まで低下していることがわかりました(図2)。溶剤の殺菌効果は、溶液中の溶剤濃度に比例します。したがって、疎水性が高い(log P値が大きい)溶剤ほどミセル内部へ取り込まれやすく、菌に作用する溶剤の実効濃度が減少したため、殺菌力が低下したと考えられます(図3)。

図2. 界面活性剤とアルコール系溶剤共存下における水中の溶存溶剤相対量
図3. 殺菌に影響するアルコール系溶剤の溶存状態イメージ

3.アルコール系溶剤による液体洗剤の防腐力への効果

最後に、モデル液体洗剤中での防腐効果を確認するために、界面活性剤存在下でも殺菌力を維持した溶剤を用いて保存効力試験を行いました。保存効力試験とは、防腐力試験とも呼ばれ、サンプルに微生物の懸濁液を添加し、生菌数の経時変化を測定することで、製品の防腐効果を確認する試験法です。試験の結果、エタノールを配合した系では28日後になっても生菌数はほとんど減少しませんでしたが、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを配合した系では、4日後以降生菌数は検出限界未満となり、高い防腐力を示しました(図4)。

図4. アルコール系溶剤を配合したモデル液体洗剤の保存効力試験結果

4.まとめと今後

本研究より、防腐設計を検討するにあたり、配合成分同士の相互作用を総合的に理解することの重要性が示されました。引き続き、アルコール系溶剤にとどまらず、他の成分を活用した新たな防腐処方設計技術を検討し、安心・安全な製品開発を推進してまいります。

加藤 泰輝、界面活性剤組成中における3-Methoxy-3-methyl-1-butanolの殺菌機構解析技術に関する研究
C & I Commun Vol.50 No.3, 37-40 (2025)
(この論文はクリエイティブ・コモンズ[表示 4.0 国際]ライセンスの下CC BYに提供されています。)

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