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「きれいな水を守る」原点

歯をみがく、洗濯をする——日々の暮らしは、必ず「水」を使います。ライオンは製品をつくるだけでなく、洗濯機の普及と合わせて需要が高まった洗剤メーカーとしての社会的使命として取り組み、行動し続けています。当時の史料とともに、その歩みをたどります。

「水を守る」モノづくりの原点

ライオンの「水を守る」という姿勢は、実は創業期からすでに芽吹いていました。海外品に比べて石鹸製造の技術が劣っていた明治期、ライオンの先人たちは成分や配合を一つひとつ研究・検証しながら、地道にものづくりを積み重ねました。技術と知識を貪欲に吸収する研究の様子は、当時の「石鹸製造日記」にも詳しく書き残されています。
その後も、質の良い石鹸を安定してお届けするため、石鹸原料や製造技術について熱心に研究を続けました。1920 (大正9)年、日本初の植物油脂を原料とした家庭用の『植物性洗濯石鹸』を発売しました。製法も日本初の脂肪酸焚きで行い、臭みが少なく、洗浄力も優れていました。同品は品質の良いものをお届けするため、大豆油を原料として利用していましたが、高価であったため、国産未利用資源の研究にも励んでいました。ここでいう未利用資源とは、シルクを作る製糸工程で大量に廃棄される蚕のサナギから搾った油や、日本近海で豊富に取れる魚を由来とする油、醤油製造時の搾りかすから採れる油などでした。資源を大切に使う探求心と学ぶ力は、「水を守る」取り組みにも通じる当社のものづくりの原点といえます。

石鹸製造日記
『植物性ライオンせんたく石鹸』
(日本初の家庭用植物性洗濯石鹸)

「すすぎの泡がスーッと消える」技術が、水を変えた

1961(昭和36)年、電気洗濯機の普及率は全世帯の58%に達し、日本の家庭の洗濯事情は大きく変わりつつありました。同じ年には、粉石鹸と合成洗剤の生産量が逆転し、より手軽な合成洗剤が主流になっていきました。
しかし、当時の洗濯機はボタンひとつで洗いからすすぎ、脱水まで完了する現代の「全自動」とは異なるものでした。すすぎ完了を知らせるセンサーなどはなく、主婦たちは洗濯機の傍につきっきりで、洗濯槽の中に残る泡の様子を自らの目で確かめながら、すすぎ終わりのタイミングを決めていたのです。「ゆすいでもうきれいだと思っても、しぼるとワッと泡が出る」という洗剤使用後のすすぎの不快感を、当時の主婦たちは感じていました。
その生活者の声に応えるため、ライオンの研究者たちは多くの洗濯機を使った実用試験を何度も繰り返しました。一日中洗濯機をまわし、泡がつぶつぶ程度に減るまでひたすら洗濯工程を見つめ続けました。その地道な検証の末、誕生したのが、1962(昭和37)年発売の世界初、泡をコントロールする洗剤『ハイトップ』です。「洗っているときはパーッと泡立ち、すすぎに入るとスーッと泡が消える」。このように、すすぎの水に大量の泡が残らなくなり、排水される水もよりきれいになりました。

1962(昭和37)年発売時の
『ハイトップ』のパッケージ

泡立つ川——川を守りたい想い

高度経済成長期の日本。「テレビ・冷蔵庫・洗濯機」が家電の三種の神器として急速に普及し、洗剤の消費量も飛躍的に増大しました。それに伴い、大量の洗濯排水が流出し、都市周辺部を流れる河川での泡立ちが社会問題になりました。現在では、家庭からの排水は下水処理場で浄化されてから河川等に放流されていますが、当時は東京都でさえ下水道普及率が約35%と整備が不十分で、ほとんどの下水は直接河川に流されていました。原因は、当時の合成洗剤に配合されていた洗浄成分「ABS(分岐鎖アルキルベンゼンスルフォン酸塩)」という界面活性剤でした。通常自然界には、汚れなどの有機物を分解する微生物が棲息しており、これらの力で最終的には水と二酸化炭素に分解され、環境をきれいに保つ自浄作用があります。ところが当時の洗剤に使われていた界面活性剤は生分解されにくいものが主流で、微生物の力では十分に分解されず、河川に残留してしまいました。

1964(昭和39)年 東京芝浦下水処理場の水が泡立つ様子

この課題に対し、業界全体が生分解性の高い界面活性剤へと転換を進める中、ライオンは、前述の洗浄成分(ABS)に代わる、より生分解性が高い独自の洗浄成分「AOS(アルファオレフィンスルフォン酸塩)」の開発に取り組みました。しかし、この洗浄成分を安定して量産するには、多くの課題がありました。反応性の高いガスと油との化学反応による合成のため、反応速度が非常に速く、激しい発熱を伴い制御が難しいものでした。そのため、色や臭いなどが生じやすく、洗剤に必須である「着色がなく臭くない界面活性剤」を得ることが困難でした。こうした量産上の課題を解決すべく、研究者たちは数々の困難を克服し、ライオン独自の製造装置※1を開発しました。
1965(昭和40)年、世界で初めて工業化に成功した新たな洗浄成分配合の合成洗剤『ダッシュ』が誕生しました。
開発した独自の製造装置は、2009(平成21)年に国立科学博物館の「未来技術遺産※2」に登録され、日本の環境技術史に残る発明として今も高く評価されています。選定の理由は、「この装置により、泡の消えやすい界面活性剤の量産が可能になり、家庭用洗剤に配合され発売された結果、都市河川などで起きた生活廃水の泡の大量発生が抑えられた」とされています。日々の洗濯行動の先にある川の水まで考えるという、環境を大切にする心は脈々と受け継がれ、現在の取り組みにも生かされています。
※1 TOリアクター。同装置の名称内の「TO」は、開発者氏名の頭文字をとったもの。
※2 国立科学博物館が、先人たちの科学技術を次世代に継承することを目的として、2008(平成20)年度から始めた「重要科学技術史史料」登録制度。この制度の愛称。

1967(昭和42)年発売時の
『ダッシュ』のパッケージ
未来技術遺産に登録された
ライオン独自の開発製造装置※1
開発したライオン独自の製造装置※1の
未来技術遺産第39号の登録証と楯