1970年代に入ると、日本は経済成長の陰で新たな水環境問題に直面しました。中でも、湖沼や湾などの閉鎖系海域で、アオコや赤潮の大量発生により水面が緑や赤に染まる光景が広がり、かつての清らかな水辺が失われていきました。この現象は「富栄養化」と呼ばれ、主に植物性プランクトンが異常増殖することにより引き起こされました。当時の日本では下水処理場の普及があまり進んでおらず、窒素やリンなどの栄養塩類が農業排水、工業排水、生活排水として流入することが原因と言われていました。

その一因に洗剤のリンが関わっているとの疑念に対し、洗浄力を高める成分であるリンの削減は業界内でも大きな課題でした。ライオンの研究者たちは水環境問題解決に強い使命感を持ち、リンをゼロにした無リン洗剤『せせらぎ』を1973(昭和48)年にいち早く発売しました。清らかな小川の流れを取り戻したいというメッセージが込められたこの製品は、日本の洗剤業界が無リン化へと進むきっかけの一つとなりました。しかし、発売直後に第一次オイルショックを背景とする「洗剤パニック」に遭遇したことなどもあり、無リン洗剤として広く市場に浸透するには至りませんでした。それでも、この『せせらぎ』の開発過程で得られた数多くの知見と、環境保全への揺るぎない想いは決して途絶えることなく、次の大きな飛躍へと繋がっていきます。

ライオンは、洗浄力を高める成分であるリンを削減する一方で、「衣料用洗剤の洗浄力を10%アップさせる」という目標を掲げ、「110作戦」と名付けたプロジェクトを始動させました。研究の結果、界面活性剤だけでは落としきれない頑固な汚れの“犯人”は、繊維に汚れを強力に結びつける「タンパク質」であることを突き止めました。
この「タンパク質」汚れを分解するため、ライオンは「酵素」の力に着目します。デンマークのノボ社(現・ノボザイムズ社)の協力を得て安全性に優れた酵素を採用し、ライオン独自の生分解性の高い洗浄成分(AOS)と組み合わせることで、目標を上回る洗浄力を実現。こうして1979(昭和54)年に誕生した『酵素パワーのトップ』は、画期的な洗浄力で瞬く間に消費者の支持を集めます。
この『酵素パワーのトップ』は、広く市場に受け入れられた酵素配合洗剤として、2016(平成28)年には国立科学博物館の未来技術遺産に登録されるなど、その技術及び社会的な意義を高く評価されました。


しかし、ライオンの挑戦はここでは終わりません。確かな洗浄力を保持した上での「完全無リン化」の達成へと邁進します。 最大の技術的な壁は、リンに代わって「洗浄力を補助し、粉の固化を防ぐ」成分を見つけることでした。試行錯誤の末、水澤化学工業㈱との共同研究により、「ゼオライト」という物質を洗剤に応用する技術を確立します。ゼオライトは酵素の働きを損なわずに洗浄効果を高め、さらに粉末のサラサラ性を保つことができたのです。
ライオン独自の生分解性の高い洗浄成分「AOS」、汚れを分解する「酵素」、そして「ゼオライト」。これらを組み合わせることで、ついに従来の有リン洗剤を凌ぐ洗浄力を持つ無リン洗剤の開発に成功し、1980(昭和55)年、『無りんトップ』を発売しました。ちょうどリン入り洗剤の販売を禁止する条例施行の3ヵ月前に発売された『無りんトップ』のポスターには、澄んだ湖を背景に浮かぶ姿が描かれています。
世界に先駆けて洗剤の無リン化に取り組み、水環境の保全を大きく前進させたこの独自の技術は、1985(昭和60)年度日本油化学協会「工業技術賞」、第33回日本化学会「化学技術賞」を受賞しました。
「きれいな水をいつまでも」。その切実な願いは、技術の力によって確かな形となり、今日の環境配慮型製品へと脈々と受け継がれています。

無リン化による水環境の保全を成し遂げたライオンの「水を大切にする」という想いは、やがて、豊かな水が循環する地球全体の環境保全へと広がっていきます。そのための次なる課題は「地球温暖化」への対応でした。従来の石油系原料に代わる、水にも地球にもやさしいパームヤシなどの植物から作られる洗浄成分※1に着目しました。
植物は成長過程で大気中のCO2を吸収するため、大気中のCO2の総量を増やさないという循環型の特性があります。ライオンはこの洗浄成分をいち早く衣料用洗剤に採用し、確かな洗浄力と環境負荷の低減を見事に両立させました。
洗浄力はそのままに植物原料への転換を図ったことで、家庭での洗濯に伴うCO2排出量を大幅に削減(2006(平成18)年発売の『トップ』では1990(平成2)年比で47%削減)することに成功。長年にわたる「商品を通じた環境配慮」が高く評価され、2007(平成19)年には「第16回 地球環境大賞」を受賞しました。
※1 MES(アルファスルホ脂肪酸エステル塩)

水資源の確保は世界的な課題となっています。ライオンの製品は水との関わりが深いこともあり、「雨水の貯留、浸透および利用」を支援する取り組みを行っています。
その一つとして、両国国技館前に公共の場では初めての事例となる雨水タンク「両国さかさかさ」を2010(平成22)年に設置し、墨田区に寄贈しました。屋根の部分を、傘を逆さにしたようなテント地の布で覆った形状であることから命名しました。テント地の屋根に集めた雨をタンク部分に貯める仕組みとし、貯水した水を花壇への散水や打ち水などに利用できる設計となっています(貯水量約600リットル)。

また、CO2を吸収し水源ともなる森林にも着目しています。2006(平成18)年には山梨県が推進する「ライオン山梨の森」を開設し、植林・間伐・遊歩道設置等の森林整備を行っていました。


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