少子高齢化・人口減少・資源の枯渇等膨大化する社会課題や、AIやIoTに象徴されるテクノロジーの劇的な進化等により、社会そして人々のくらしは日々大きく変化しています。ライオンは、これらの変化に対応し、人々のヘルスケアを支える企業になるためには、「モノ」の提供のみに留まらず、お客様に新しい「価値」を提供していくことに重きを置いています。その実現のためには、行政・企業等の外部組織とのパートナーシップを強化し「オープンイノベーション」に取り組むことが鍵となります。その取り組みのひとつが、「革新的イノベーション創出プログラムCOI STREAM*」での共同研究です。
* COI(Center of
Innovation)STREAM(以下COI)とは、日本の経済再生を目指すべく、文部科学省・科学技術振興機構が2013年に開始した「革新的イノベーション創出プログラム」です。COIは、10年後のあるべき社会像を見据えて、企業や大学だけでは実現できない革新的なイノベーションを産学連携で実現するとともに、そのためのイノベーションプラットフォームを整備することを目的としています。
COIは、全国18の拠点で、大学や企業が一体となって研究開発を推進しています。ライオンは、その拠点のひとつである国立大学法人弘前大学との共同研究に2015年より取り組んでいます。
弘前大学COIは、真の社会イノベーションを実現する革新的「健やか力」創造拠点として、健康ビッグデータを活用した認知症や生活習慣病等病気の予兆発見の開発や、予防法を開発する研究とビジネス化に取り組んでいます。この研究の背景には、青森県の「最短命県」という健康課題があります。青森県は、高齢化に加え、加齢性疾患・生活習慣病のリスクが高く、都道府県別平均寿命ランキングでは、男性・女性ともに平均寿命が日本最下位の状態が長年続いています。
弘前大学は、青森県の「短命県返上」を目標に掲げ、弘前市の岩木地区の住民を対象に、大規模住民健康調査「岩木健康増進プロジェクト健診」(岩木健診)を実施しています。岩木健診には毎年1,000名前後の住民が参加し、のべ2万名以上の膨大な健康ビッグデータ(約2,000項目)が蓄積されています。弘前大学COIプロジェクトでは、この健康ビッグデータを用いた研究開発・ビジネス化に取り組み、短命県のデータだからこそ導き出せる健康イノベーションを目指しています。ライオンはこのプログラムに参画して、主に「口腔」および「睡眠」の研究に取り組み、生活習慣、体質、全身健康との関連を明らかにし、人々の健康寿命の延伸につながるソリューションの開発・普及を目指しています。
弘前大学COIの一環として、メタボリックシンドローム、ロコモティブシンドローム、歯科口腔、うつ病・認知症における健康意識向上および生活行動変容を測る新たな健診システムを開発しています。当社は、このうちの歯科口腔分野を担当し、独自に開発した多項目唾液検査システム(SMT)・受診者が歯や歯ぐきの様子を自身で確認できる口腔内カメラ・問診アンケートから成る口腔健診プログラムにより受診者の意識・行動変容を検証しています。
多くの企業・自治体の集団健診では、時間や費用、歯科医師の不足等の問題により、歯科項目の健診が実施されないことが多いのが現状です。当社はこの取り組みを通じて、信頼性が高く、かつ簡便な口腔内検査システムを実現させ、将来的にはより手軽に口腔健診を受診できるシステムの構築を目指しています。
口腔および睡眠と、全身の健康状態との関係を研究することを目的として、弘前大学大学院医学研究科内に寄附講座「オーラルヘルスケア学講座(2016年5月~2022年3月)」を開設しました。近年、口腔または睡眠の状態が全身健康に関連があることや、オーラルケアが生活習慣病の予防につながる可能性が指摘されています。本講座では青森県医師会や青森県歯科医師会とも連携し、科学的エビデンスを追究するとともに、研究成果に基づいた商品・サービスの創出を目指します。
研究開発本部業務管理部(当時:生命科学研究所) 翠川 辰行
2016年4月から約2年間弘前大学に常駐しました。私は健康ビッグデータから、睡眠変調の原因となる生活習慣や体質、および睡眠と健康との関連を明らかにすべく解析に取り組んでいます。また、今別町やむつ市等青森県内各地を訪問し、地域・職域・学校における健康リテラシー*の向上に向けた健康教育活動にも参加しました。社会の仕組みを変えないと健康づくりは達成できないという信念のもと、大学の先生・住民の方々・参画企業・行政と、まさに産官学民が一体となり、前例のない取り組みに悩みながらも本気で挑む姿に、日々刺激を受けています。私自身も、この弘前大学COIから新たなヘルスケア産業の流れを生み出す現場に関われる幸せに感謝しつつ、新たなヘルスケア事業の社会実装につながるデータ解析を推進しています。
*健康に関する正しい知識と実践方法の理解
「予防歯科」の学会活動や若手研究者の育成を支援する目的で「ライオン学術賞」を2001年に創設しました。
本賞は、世界最大の歯科学会である「国際歯科研究学会(IADR)」と国内の「日本小児歯科学会」「日本口腔衛生学会」「日本老年歯科医学会」「歯科基礎医学会」「日本歯周病学会」5歯科学会に学術賞として設置され、創造的な研究を行った研究者に対して盾と賞金を進呈しています。
2001年の創設から19年間で199名の研究者が受賞しています。
学会名 | 授賞式開催都市 | 授賞式 開催日 |
受賞者(所属) |
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国際歯科研究学会 (IADR) |
オンライン | 6月20日 |
Mohammed Nadeem Bijle (The University of Hong Kong, SAR, China) Carla Alvarez Rivas (Universidad de Chile) |
日本小児歯科学会 | オンライン | 5月21日 |
稲田 絵美 (鹿児島大学病院 発達系歯科センター小児歯科、講師) 山座 治義 (九州大学歯学研究院 口腔保健推進学講座 小児口腔医学分野、准教授) |
日本口腔衛生学会 | オンライン | 5月27日 |
中山 佳美 (北海道釧路保健所(兼)札幌医科大学医学部公衆衛生学講座 兼任講師) バワール ウジャール (日本大学松戸歯学部生化学・分子生物学講座 助教) |
日本老年歯科医学会 | オンライン | 11月7日 | 八田 昴大 (大阪大学大学院歯学研究科有床義歯補綴学高齢歯科学分野 助教授) 藤原 彩 (岡山大学病院インプラント再生補綴学分野 医員) |
歯科基礎医学会 | オンライン | — | 受賞者なし |
日本歯周病学会 | オンライン | 10月16日 | 前川 知樹 (新潟大学大学院医歯学総合研究科 高度口腔機能総合研究科教育研究センター 准教授) 加治屋 幹人 (広島大学大学院医系科学研究科 歯周病態学研究室 助教) |