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知られざる唾液のチカラ

ライオンの唾液に対する取り組み

唾液には、おいしく食事を食べるための作用や上手にしゃべるための作用、そして口を健康に保つための作用などさまざまな機能があることが知られています。ライオンでは100年以上にわたるオーラルケア研究の蓄積を基に、唾液に着目した研究を進めています。

“お口を潤す”新成分「ポリグルタミン酸(PGA)」

最近、「ドライマウス」という言葉が一般的に使われるように、口の渇きに問題を抱える人が増えています。

2017年にライオンで実施した調査から、20~60歳代のうち、約2,400万人が口の渇きやネバツキなどを感じていることがわかりました。

ドライマウス(口腔乾燥症)は唾液分泌量の低下などによって起こる不具合であり、その原因として、糖尿病や自己免疫疾患のひとつであるシェーグレン症候群などの全身疾患、薬の副作用、口呼吸や喫煙および精神的ストレスなどが挙げられます。このような口腔内の乾燥に対応する成分として、ヒアルロン酸などの保湿性の高い物質が従来から使用されてきましたが、根本原因である唾液分泌量の低下を改善するには至っていませんでした。ライオンでは唾液分泌促進に効果のある物質の探索を行い、「ポリグルタミン酸(PGA)」が持続的に分泌促進することを見出しました。

グラフ:1%PGA溶液と生理食塩水との間の唾液分泌促進効果比較

生理食塩水またはPGA溶液を30秒間口に含みすすいだ後、分泌された唾液量を5分ごとに30分後まで測定し、累積唾液量を測定しました。その結果、PGA溶液は生理食塩水に比べて有意に唾液量が増加することを確認しました。

歯周病菌の毒素を不活性化する唾液成分「ラクトフェリン」

グラム陰性菌である歯周病菌は、殺菌後も“毒素”LPS(リポポリサッカライド)を残存させるため、歯周病の症状である炎症や組織破壊が進行する原因となることが知られています。そこでLPSと歯周病の進行との関係について詳細なメカニズムを明らかにするために、遺伝子の網羅的解析(DNAマイクロアレイ解析)を行いました。その結果、LPSはヒト歯肉線維芽細胞のコラーゲン合成に関わる遺伝子群の発現を抑制し、一方で分解に関わる遺伝子群の発現を亢進することにより、歯周組織のコラーゲン量を減少させて組織を破壊に導くことがわかりました。

続いてLPSを不活性化する成分の探索から、唾液に含まれる抗菌成分のひとつであるラクトフェリンを見出しました。ラクトフェリンはLPSに結合することで不活性化し、LPSによる歯周組織の破壊を抑制することを明らかにしました。

グラフ:ラクトフェリンのLPS不活性化作用

ヒト歯肉線維芽細胞に「LPS」、「LPSとラクトフェリン」を作用させ、Ⅰ型コラーゲン(歯周組織を構成するコラーゲン)の合成量を測定しました。 その結果、LPSによってⅠ型コラーゲンの合成量が減少しますが、ラクトフェリンが共存していると正常レベルに維持することが明らかとなりました。

出典:鈴木ら, ラクトフェリンによる歯周病予防効果 -ヒト由来歯肉線維芽細胞に対する影響-,
   ラクトフェリン2007, 日本医学館, 2007, p68-72

この歯周病に対する有用性研究の過程において、ラクトフェリンの新たな機能として脂質代謝改善作用も見出され、内臓脂肪を低減させるサプリメントの開発につながりました。

短時間で多項目の唾液検査が可能な『サリバリーマルチテスト(SMT)』

ライオンでは、自分の口腔内の状態を客観的な数値として知ることができる、唾液検査システムを開発し、実用化に至りました。これにより、例えば歯科医院のチェアサイド(歯科診療台の横)で、歯と歯ぐきの健康、口腔清潔度に関連する6項目の値をわずか5分間で測定することができます。歯の健康に関しては「むし歯菌」、「酸性度」、「緩衝能」を、歯ぐきの健康に関しては「白血球」、「タンパク質」を、また、口腔清潔度に関しては「アンモニア」をそれぞれ測定します。結果はレーダーチャートとして、その場で提示されるため、歯科医師や歯科衛生士による説明によって、よりわかりやすく自分の口腔内の状態を把握することができます。これら6項目の唾液因子と実際の口腔内の状態との相関性を臨床試験により立証しております。例えば、歯ぐきの健康については、歯周ポケットの深さが「白血球」および「タンパク質」の検査結果と相関することが明らかになっています。

多項目・短時間唾液検査システム『サリバリーマルチテスト(SMT)』の概要

  • ①採取

    SMTの測定には洗口吐出液を用います。検査キット付属の洗口用水(3mL)を口に含み、口腔内全体にいき渡るように10秒間洗口するだけで試料の採取が完了します。

  • ②測定開始

    洗口吐出液を試験紙に点着して専用機器にセットし、スタートします。

  • ③測定終了

    測定時間はわずか5分。SMTは1回のアポイント中に結果がフィードバックできるスピード検査です。

  • ④結果

    測定結果はパソコンに転送され、簡単に結果シートを作成できます。歯の健康、歯ぐきの健康、口腔清潔度に関する項目を「見える化」し、その場で患者さんと共有できます。

SMTの活用場面

SMTは、「採取」、「測定」、「結果」の3ステップで行う簡単な検査で、その場で結果が分かります。歯科医院では、初診時での口腔内の状態把握や、治療・定期検診時の口腔健康への意識向上、セルフケアに対するモチベーション向上などに役立ちます。また、企業健診など一度に大勢の検査を行う集団健診においても有用と考え、疾患の早期発見や定期健診に繋がる新たな取り組みも開始しています。SMTを通じて、これからも予防歯科をサポートしていきたいと考えています。

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