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書道家・武田双雲さんの日常にある、
ポジティブに生きるための習慣

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ライオンでは、「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」をパーパス(存在意義)に掲げています。

今回お話をうかがったのは、書道家の武田双雲さん。数々の映画やドラマの題字、商品ロゴなどを書きあらわすだけでなく、斬新な個展やパフォーマンスを展開。近年では白黒の書に色を取り入れた作品なども手がけ、現代アーティストとして精力的な活動を行っています。そして、書道だけでなくベストセラーとなった『ポジティブの教科書』(主婦の友社)をはじめ、さまざまな形で「人生を楽しく生きるヒント」を発信することでも注目を集めています。

『書道家・武田双雲』がいまも大切にする作品制作の原点

階段に立つ書道家・武田双雲さん|LION Scope | ライオン株式会社

多くの人に書道家として知られる武田さんですが、意外なことに書道で生きて行こうと決意されたのは25歳の頃だったそうです。

そんな武田さんが最初に挑戦したのは路上でのストリートパフォーマンス。最初は道行く人の反応も薄く、手ごたえを感じなかったそうですが、あるひとつの出来事が転機になり、現在の作品制作にもつながる気づきを与えてくれたそうです。

武田:ある日、たまたま女の子から「『愛』という文字を書いてください」というリクエストをもらいました。「どうして『愛』という字なの?」と聞くと、「実はさっき失恋して……」と、思い出を語ってくれて。そこで私が小さな色紙に『愛』の字を書いて渡すと、女の子は大泣きするほど感動してくれました。私の書いた書が初めて伝わった瞬間です。

いま思うと、そのときにコミュニケーションの大切さに気がついたと思います。これまでに映画やドラマのタイトル、商品の題字やコンセプト、企業のロゴなどを依頼されてたくさん書いてきたのですが、全部その体験が原点になっています。選んだ言葉の裏の物語などをカウンセラーのように引き出して、深いコミュニケーションをとるようになりました。

ストリートで活動されていた頃の書道家・武田双雲さん|LION Scope | ライオン株式会社
ストリート時代の武田さん

「楽」という漢字から導き出した習慣を楽しむための工夫

書道家として進みはじめた武田さんは、その後に開いた書道教室でもコミュニケーションを大切にしたワークショップを中心に行うなど、独特の活動で注目を集めていきます。

そして、生徒たちに言われた「先生ってすごくポジティブだよね」という一言から、ご自身がほかの人よりもポジティブな感情で生きていて、それが多くの仕事や良縁に結びついたという考えに行き当たります。

そこから人生をより良く過ごすための「ポジティブ」は性格ではなく、技術であり選択の結果であると発見した武田さん。ご自身が見つけた毎日をポジティブに過ごすためのメソッドを、『ポジティブの教科書』をはじめとする著書や講演会など、さまざまな形で発信されています。

事務所(アトリエ)にて、取材に応える書道家・武田双雲さん|LION Scope | ライオン株式会社

武田さんの「ポジティブ」を形づくったエピソードを話してくれました。

武田:書道家として独立したのですが、先の目標があまりにもフワフワしていました。たとえばミュージシャンでしたらレコード会社に所属してプロデビューしたり、社会人でも転職したらその会社でしっかりと成果をあげていくという「道」があると思います。私が踏み込んだところは前人未踏の道なき道というか、前例がありませんでした。

このままだとただの遊び人で終わってしまいそうだったので、筋というか、ビジョンを1個だけ決めようと思いました。26歳のときにいろいろな漢字のなかから「楽」という字に決めて、「楽」の達人になろうと決めたのです。ただ、いざ実践しようとしたら、思ったより自分自身の厳しいチェックが入ることになりました。

「楽」を人生のテーマに決めた武田さんは、日常の行動すべてを「楽しんでいるか」「リラックスしているか」と確認していったと言います。

武田:「歯みがきを楽しんでいるか?」「寝るときも楽しんでいるか?」と、自分の行動をひとつずつチェックする。そうしていると、シャンプーのときに無駄に力が入っているのがわかるし、ドライヤーも「早く乾かないかな」とイライラしている。単なる作業になっていて、楽しんでいないことに気づいて愕然とするわけです。そこから楽しむための工夫をはじめました。たとえば、ドライヤーのときは「聖なる風よ、出でよ!」って言います。

武田さんが編み出した習慣を楽しむためのアクセントは行動にストーリー性を持たせるというユニークなアイデア。武田さんの手にかかればドライヤーは聖なる風が吹き出すマジックアイテムに早変わりです。

武田:そうすると、ただの髪を乾かすという行為にもドラマが生まれて、心がおもしろくなりますよね。ハブラシは「伝説の剣」です(笑)。そうやって、ひとつひとつの習慣を楽しむ工夫を考えるようになりました。

事務所(アトリエ)にて、書いていただいた「楽」を持つ、書道家・武田双雲さん|LION Scope | ライオン株式会社

どうしても持ってしまう「不満」をポジティブに変換するコツ

武田さんは、ポジティブを追求する上でネガティブな感情にも目を向けるようになったそうで、最新の著書『ネガティブの教科書』(きずな出版)では、ネガティブを知ることが真のポジティブに近づくヒントになると記しています。

武田:なぜ日常の習慣が楽しくないものになり、面倒で退屈になってしまうのかと考えたとき、その仕組みを把握したら解消できるのではないかと思って。たとえば、新しいハブラシを手に入れたとき、最初はすごく丁寧に開けませんか? でも、3日目ぐらいからすごく雑に扱うようになって……。

確かに、はじめて購入したハブラシは最初のうちは感触を楽しんだり、磨き心地をチェックしたりと大切に扱いますが、次第に興味が薄れているかもしれません。

武田:最初は感動、感謝のような感情があるのですが、すぐに当たり前に感じて、さらには不満に変わってしまいます。でも、これは仕方がないことで、ある種の「危険察知」だと思います。自分にとって嫌なことやリスクを避けるため、不満や不安の感情でマネジメントするように人間はできていると言います。

そして、この仕組みの影響で、自分も含め、家族や会社、周りの環境も徐々に欠点しか見えなくなっていきます。歯を磨かずに放っておくとむし歯になってしまうのと一緒で、心も放っておくと荒れていくようにできている。しかもいまは社会全体があら探しをする傾向にあるので、ますますネガティブが加速してしまいます。

書道家・武田双雲さんの書籍『「ありがとう」の教科書』、『「丁寧道』、『ネガティブの教科書』|LION Scope | ライオン株式会社
武田さんの想いを綴った著書は60作品を超える

武田さんはネガティブにならないようにするコツも教えてくれました。

武田:本来、私は飽きっぽいし、物事が続かないタイプです。そんな私がなぜポジティブの習慣を続けていられるのかというと、「楽」につながります。ドライヤーのときに「聖なる風よ、出でよ!」と言って心をおもしろくするのは、子どもっぽさを取り入れています。子どものときって何でも楽しかったですよね。そんな無邪気な楽しさをアクセントにしています。

そうして続けていると、「楽しい」にもいろいろな形があるのが分かってきます。無邪気な楽しさも毎日は続けられないですよね。そこから、もっと穏やかな「楽しい」が見つかって、それが「感謝」なんです。

武田双雲が目指す、毎日に感謝があふれる世界

毎日のさまざまな営みに「感謝」を持って接することで、日常の景色の見え方が変わってポジティブな感情が持続できると発見し、実践している武田さん。ご自身の気づきを発信することで実現したい世界があるそうです。

武田:普段やらなければいけないルーティンをみんなたくさん持っていると思いますが、たとえば私は朝起きたら必ず胸に手を当てて「心臓が動いている」と口にします。それがもう「今日も動いてくれている」という感謝なんです。

妻が隣にいるとか、子どもが起きたとか、ご飯が食べられるとか、当たり前のように思っていることも、本当は当たり前ではありません。ひとつずつに「感謝しよう」と思うより、ひとつずつが「有るんだ」と認識、認知するだけで、感謝の気持ちは湧いてくると思うのです。でも、そういう「習慣」を続けるのは難しいから、“楽しめること”に変換できればいいですよね。自分がやりたくなることってクリエイティブですから。

確かに、「ありがたい」を漢字で書くと「有る」ことが「難しい」と書きます。

武田:私たちは毎日の行動に対して、起きなきゃ、寝なきゃ、勉強しなきゃ、働かなきゃって、動機が「~なきゃ」になることが多いですよね。私たちの頭のなかは、「なきゃなきゃプログラム」ともいうべき義務感に支配されていて、これが「苦しみ」の原因になっていると思います。そして、年を重ねるにつれて「~なきゃ」は増えていきます。なぜなら、赤ちゃんは「泣かなきゃ」「寝なきゃ」とは考えないですから。

この「~なきゃ」をとるだけで、人間は楽しくなると思います。日々のひとつひとつの習慣を「なきゃ」から「ワクワク」に変えられたとき、義務感から「やりたい」に変えられたとき、世界は魔法みたいに変わるような気がします。

事務所(アトリエ)の2階にて、作品に囲まれる書道家・武田双雲さん|LION Scope | ライオン株式会社

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